官僚日記

現役若手官僚の絶叫

若手官僚のある日の一日(ver.のどかな日)

7:30、起床。眠い。あと5分と思いつつも目覚ましを叩いて体を起こす

顔を洗う。クローゼットを見るとシャツがよれよれのものしかない。近所のクリーニング屋に服を取りに行く

8:00、家に戻る。クリーニング済のシャツに袖を通す。朝食を取る時間がないのですぐに出発。今日も通勤ラッシュの中、もみくちゃにされながら通う

9:00、登庁。PCが立ち上がるまで新聞の切り抜きに目を通し、所管施策に関する言及がないか等をざっとチェック。懇意にしている先生が執筆した記事を発見するが、特にうちの役所の話はなかった

9:30、始業。午後の打ち合わせに使う資料を確認してもらうため、課長に紙で印刷したものをお見せする。書きぶりについて数箇所指摘が入り、少し議論になる。ご指摘の通りなので、自席に戻って修正作業

10:00、総務課から、他省庁が作ったX白書の原案に関する各省協議のメールが入る。我々の所管施策にダイレクトに関係する内容があるとのアラートがあったため、手元の作業を止めて該当部に目を通す。若干の事実誤認があったため、部下の職員に口頭で修正案の作成を指示

再び打ち合わせ資料の修正作業に入ろうとしたところ、今度は与党の先生から資料要求。先日公表した成果物を2部届けてほしいとのことだった。あまり日頃のお付き合いのない先生だったので、公表後の会館*1配布先一覧に入っていなかった模様。これも部下に任せる

10:30、打ち合わせ資料の修正案が完成。関係者了解となりセット版*2を送付しておく

11:00、部下の職員が要求のあった資料をお届けに会館へ出発するのと入れ替わりに某省から外線。予算要求の関係で相談事があり、こちらに来訪の上で打ち合わせをしたいとのことだった。どうやら主計局*3から出ている宿題対応とのことで、今日の午後にも話をしたいそうだ。とりあえず話を聞くだけ聞こうということで、16:00頃で手頃な会議室を予約

12:00、昼休みとなる。この日は昔お世話になった他省庁の先輩職員とランチ。今日はたまたまうちの役所に来ているとのことで、食堂で落ち合う。カレーライスの大盛りを注文。現在手がけている仕事の話を聞いたり、こちらの近況報告をしたり

13:00、打ち合わせが13:30からスタートするので資料の印刷を開始。会議室のセッティングへ向かう

13:30、局内の偉い人が一同に会して打ち合わせ。案件は内閣官房のある事務局から来ている依頼への対応方針について。総務課が局としてのおおまかな方針を示し、我々も原課*4としての対応方針を示す。幹部陣から色々と総務課方針に細々とした指摘が入るが、我々の課はほぼ無傷で終了

15:00、席に戻ると大臣用の想定問答*5の作成依頼が来ていた。とあるインタビューのためらしい。部下が原案を作ろうとしていたのだが、問表*6をみていると一つ厳しい問があったのでこれは自分で作ることに。課長に見せて関係部局へ合議*7をかける

夕方

16:00、某省の課長以下が来訪。予約しておいた会議室へ連れて行く。今回の予算要求のポンチ絵*8と、主計局から降りている宿題内容が書かれた1枚紙に沿って説明があった。身構えるほどの内容では全くなかったので、いったん持ち帰りつつ明日なるべく早い時間に正式な返事をすると回答

17:00、想定の合議が終了、我々の原案通りでセット。大臣との打ち合わせは明朝の旨も合わせて課長に連絡。先程の某省との打ち合わせの概要を作成

18:00、課長と先程の某省との打ち合わせの返し方を相談。一応関係課にも相談すべきということになり、明朝に持ち越す。手が空いたので作業モノを進めておく

20:00、総務課の若者がやってきて雑談。原課業務をしたことがないまま2連続で総務課配属となってしまい、色々と苦労しているようだ。原課の仕事だって大差ないと言いつつ、総務課が色々と露払いしてくれるから原課も気持ちよく働けるんだよなどと話す

20:30、セットとなったはずのインタビュー想定に微妙な修正が入る。非常に軽微な内容だったので関係者に通告ベース*9で共有しておく

21:00、作業に一段落ついたので退庁。平和な日だった。帰りにコンビニでカップ麺と惣菜を購入。夕飯と家事を一通り済ませ、読書して就寝。お疲れ様でした

むすび

メルマガの読者アンケートでよくお寄せいただくので、若い役人のある一日をできるだけ詳細に書いてみました。繁忙度に応じていくつかバリエーションを作ろうと思っていて、今回は国会閉会中のとてものどかな一日を再現しました。繁忙期編はまたいずれ。

*1:議員会館のこと。衆Ⅰ、衆Ⅱ、参、などと略す

*2:最終版という意味の役所用語

*3:財務省で予算関係の仕事をしている人々

*4:実際に政策を担当する部署。総務課は窓口で、傘下の原課におおまかな方針を示したり、どこにも落ちない仕事を捌いたりする

*5:こう問われたらこう答える、という回答ぶりを整理した資料。国会答弁のほか、こういった対外発言の機会にも想定問答が作られることがある

*6:質問事項一覧のようなもの。役所側で作る

*7:「あいぎ」と読む。政府の見解と異なることが書いてないか、事前に確認すること

*8:チャート等を用いて模式的に説明事項を整理した資料

*9:了解を求めるためのお伺いではなく、こういう修正をしました、という旨一方的に告げること

製造業の課題:政策支援が空洞化を招く矛盾を克服するには

メルマガで募集している読者投稿企画「公共経営ラボ」に、日本のメーカーの支援策に関する投稿*1がありました。ということで、前回と同じく自分の考えをここにまとめておきます。投稿内容の全文とそれに対する公共経営ラボ事務局の見解はこれから配信予定のメルマガ第15号に掲載しますのでそちらをご覧ください

今回の投稿では、日本の製造業(特に家電)が存在感を失っているので何か国として支援できることはないのか、という問題提起がありました

まず現状認識として、日本のメーカーが存在感を失っているというのは仰るとおりかなと思っており、後述しますが、日本がこれまで得意としてきたハイエンド領域にも低価格路線のメーカーたちが参戦してきた結果、どんどん日本のプレゼンスが低下しているというのはニュース番組や新聞報道でもよく目にされると思います

ファクトとして、下図のとおり名目GDPに占める製造業全体(左目盛)、電子機械業(右目盛)のシェアは長期的に見ればずっと減ってます*2

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行政としてもなんとか日本のものづくりは支えていきたいところ。色んな支援策が考えられます

そこで、問題の所在はどこにあるかと言うと、

国がグローバルで戦えるようにメーカーの競争を支援すればするほど、彼らがもたらすはずだった経済的果実が国外に流出してしまう

というコンフリクトにあります

企業の利益はどこまで行っても売上-コストで、売上のトップラインを上げつつコストをカットさせたいというのは、競争の当事者である企業も我々行政*3も変わりません

これをさらに分解していくには人によって本当に様々な切り口があると思いますが、ここでは以下のようにざっくり分解してみましょう

  • 売上=販売数量(=国内販売+海外販売)×価格
  • コスト=売上原価+販管費+税金

もともと日本は、特に家電は高価格帯で強みをもっていたので、価格はこれ以上上げられないぞとなると、人口減少に伴う国内需要シュリンクとあいまって、売上についてはもう海外向けの売上数量を引き上げるという選択肢しか(あくまでこの図式では)ありません。よく言われていることですね

海外需要を開拓するんなら、合わせて生産拠点も向こうに移して現地のニーズに素早く対応できるようにしたほうが良いなとなります。ましてや向こうのほうが人件費も安いので、まずは上流工程だけでも移そうとなると、がくっと売上原価(労務費)が減るわけです。どうせならということでどんどん現地人を雇用していくと、販管費(人件費)まで減ってくる

こうなるとメーカー各社にとっては売上にもコストにも効く海外進出という手を打たない理由がないわけです

当然行政サイドも海外進出をバックアップしたいはずなんですが、問題は、生産拠点が向こうに行ってしまうと税を取りこぼすばかりか、国内の周辺産業までもがダメージを食らう*4ことになるのです

さて、ここまで当たり前のことを書いてきましたが、こうした難しいコンフリクトの中で行政にできることはないのでしょうか?具体的にどういう対応が考えられるか、次号のメルマガで書きたいと思います

www.mag2.com

*1:メルマガ第13号でも取り上げさせていただきましたが、ピーターサム様、重ね重ねありがとうございます

*2:当たり前といえば当たり前ですが、かわりに増えてるのは「保健衛生・社会事業」のような社会保障色の強い産業です

*3:基本的に利益に税金がかかるからです

*4:例えば工場に勤務していた人が海外へいなくなると、彼らに毎昼弁当を提供していたお弁当屋さんが困ります。お弁当屋さんは食品加工工場で生産されたちくわをおかずに入れていたので、加工工場の売上も減ります。加工工場の売上が減ると、ちくわの原材料である魚の仕入先である水産業の漁師さんが困ります

保育の受け皿を増やすには:地方を責任主体にし、権限を移譲すべき

以前からメルマガで募集していた読者投稿企画「公共経営ラボ」に、保育の受け皿整備に関する骨太な投稿*1があったので、自分の考えもここにまとめておこうと思います。投稿内容の全文とそれに対する公共経営ラボ事務局の見解はこれから配信予定のメルマガ第13号に掲載しますのでそちらをご覧ください

目次

問題の所在:保育の受け皿が足りないのはなぜか

今回の投稿では、保育の受け皿をもっと拡充するにはどうすればよいのか、という問題提起がありました。保育の受け皿が足りずに待機児童が発生している背景には色々な要因が挙げられると思いますが、根本を突き詰めると、「行政側の責任の所在が不明確だから」という一言に尽きるのではないかと考えています

待機児童は都市圏に集中

まず、保育所がどういった場所で不足しているのかを見ていきましょう

以下のマップは厚労省が公表している都道府県別の待機児童数*2に関するもので、色が赤に近いほど保育所が不足している地域ということになります

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一目瞭然ですが、待機児童は、東京都を中心とする首都圏と大阪近辺というごくごく一部の地域にのみ偏っていることがわかりますね。つまり、待機児童問題は本来、どちらかと言うと国全体と言うより特定地域における問題なんです

地方が地方の問題として引き受けられるように

今は国の方で少し大きく取り上げられすぎている感がありますが、まさに問題の根本はここにあると思っています。国が作った子育て安心プランの中で32万人の保育の受け皿整備が打ち出され、その数値的根拠があやふや(潜在ニーズが入っていない、等)だという議論が起こったことがあるのですが、本当は潜在ニーズまで含めて一番理解している地方じゃなきゃきちんとした数字なんて出しようがないのでは?と思います

それなのに、実態を把握しきれるはずもない国が国の問題として引き受けすぎるがゆえに、責任の所在が曖昧になっている、というのが保育の受け皿整備問題の根本原因です

解決策:問題を抱える地方が主体になれる仕組みが必要

したがって、保育の受け皿整備は問題を抱える地方が主体となって取り組んでいくことが重要です。そのかわり、ある程度保育所関係の規制を緩和するか、思い切って地方の責任のもとで自由にルールを作ってもらった上で、財源問題も含めて引き受けてもらうべきでしょう

一定のルール作りはどんどん地方に任せるべき

具体的な権限の移譲の方法ですが、保育所関係に絞ってみても、全国一律で適用する意味がどこにあるのか?と疑問視されている細かい規制は実はたくさんあります

例えば、ある保育所がよその保育所から児童を受け入れて保育する共同保育は土曜日しか認められていません。保育所一箇所あたりの児童数が少なくなるGWなどの大型連休シーズンにも合わせて共同保育を実施できるよう規制緩和すれば、激務な保育士さんたちもまとまったお休みが取りやすくなり、待遇改善につながりますよね

正直、この規制に何の意味があるのかさっぱりわかりませんし、他にもナンセンスだなと思う規制はわんさかあります。この手のルール作りは、現場を誰よりも熟知している地方にガンガン委ねていくべきです

保育所のビジネスモデルに起因する財源問題

次に財源ですが、そもそもなぜ大都市圏でばかり待機児童問題が発生するのかと言うと、端的に言えばたいして儲からないからです。以下、東洋経済から引用します*3

経営に携わると、大都市圏で保育所が不足する理由は簡単にわかります。場所を食う割には儲からない、言い換えれば土地生産性が低すぎるのです。

そもそも保育所には、国の基準を満たす認可保育所と、その基準を満たさない認可外保育所(無認可と呼ばれることもあります)の2種類があります。認可保育所の場合、0歳児(≒育休明け)には1人当たり3.3平方メートル、子ども3人に1人の保育士が必要です。これを確保しようと思うと、10階建ての保育所ができるならともかく、民間企業が参入しようと思っても採算がとれません。

もちろん、参入してくる企業はあります。どうするかというと、基本的には人件費を削るケースが多く見られます。時給1000円ほどで保育士の資格を持たない人をたくさん雇うのですが、結果として、子どもを連れて行くと、担当の保育者が替わっていたとか、公設民営で年度が替わると別の業者になっていた、といったことが起きます。

「そんなら、補助金増やせよ」と思われるかもしれませんが、若者や子育て世代の投票率が高齢層に比べて著しく低いために、政治家は高齢者をより重視します。福祉の予算を高齢者から割いて、子育て関係に回すのは至難の業なのです。

言い換えると、同じ土地に保育所を建てて補助金に頼るくらいならもっと違う土地の使い方をしたほうが合理的だ、という発想ですね

なので、引用した記事の最後のパラグラフにもある通り、最後は補助金を増やすしかないというのはその通り。権限移譲とセットで財源問題が振り付けられる場合、多くの自治体で頭を悩ませるのはこの保育所特有のビジネス構造でしょう

国の関与を減らすことで生まれるインセンティブがある

これに対しては明確な回答があるわけではありませんが、地方行財政改革にはまだまだやれることがたくさんある、というのは事実かと思います

また別の記事で書きますが、もっと効率的な行政を進めていくことで、子育て予算を増やせる余地は自治体側にもあるのです。そこで捻出した予算を保育所に回し、保育のキャパシティを増やしていくわけです。そもそもそこまで追い込まれなければ地方側だって本気になんかなりませんよ、、

いつぞやも書きましたが、しょせん国の仕事というのはあまねく2,000の基礎自治体の取りまとめに過ぎません

彼らに届かない実効性のないルールは撤廃して、彼らの責任のもとに問題解決にあたるべきです

*1:今回が初投稿になります。ピーターサム様、大変ロジカルで貴重なご提言をありがとうございます

*2:厚生労働省保育所関連状況取りまとめ」(資料4)
平成29年4月1日全国待機児童マップ(都道府県別)より。以下URL参照

https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11907000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Hoikuka/0000176121.pdf

*3:東洋経済保育所は、なぜ需要があるのに増えないのか?」

https://toyokeizai.net/articles/-/33576?page=2

都市問題としての児童虐待:人口の地方回帰、公教育の拡充を

20日の関係閣僚会議にて児童虐待に関する緊急対策が取りまとめられました

mainichi.jp

引用したニュースのタイトルにもある通り、目玉は児童福祉司数を増やすことにあるようです。短期的な当面の対策としての方向性は全く間違ってないです

ということで、この記事では、今回のような緊急の対策ではなく、もっと長期的にこの問題を根本から解決していくためにはどうすれば良いのか、大きな視点で考えたいと思います

目次

問題の背景:都市化が保護者の養育能力を奪っている

児童虐待がなぜ起こるのか、その要因は様々ですが、ひとつのとっかかりとして総務省が2010年に公表した意識調査の結果を見てみます。意識調査では、児童福祉司に対して以下のような質問をしています

児童虐待の防止等に関する意識調査

あなたは、児童虐待の発生要因は何であると思いますか。次の選択肢のうち、特に大きな発生要因であると思う選択肢を三つまでお選びください。

このうち、最も回答割合が大きかったのが、

保護者の養育能力の不足

で、回答者の6割以上がこれを選択してます

ではなぜ保護者の養育能力が不足している(と児童福祉司が認識している)のか?これは多くの議論があるかもしれませんが、文科省の白書から引用してみます(下線は筆者によるもの)

平成17年版文部科学白書

(1)家庭教育の現状

家庭教育は,すべての教育の出発点であり,子どもが基本的な生活習慣・生活能力,豊かな情操,他人に対する思いやりや善悪の判断などの基本的倫理観,自立心や自制心,社会的なマナーなどを身に付ける上で重要な役割を果たすものです。

しかしながら,近年の都市化,核家族化,少子化,地域における地縁的なつながりの希薄化など,家庭や家族を取り巻く社会状況の変化の中で,家庭の教育力の低下が指摘されています。

1地域・家庭の変化

かつて日本では3世代同居型の家庭が多く,親以外に多くの大人が子どもに接し,それらが全体として家庭教育を担っていました。地域の人々とのつながりも今より密接で,人々が子どもたちを「地域の子ども」として見守り,育てていました。そして,子どもたちも地域の年の違う子どもと接したり,幼い子どもの世話をしたりした経験を持つなど,子育てを支える仕組みや環境がありました。

しかし,都市化,核家族化,地域のつながりの希薄化が進んだ結果,今日では多くの地域で,子育てを助けてくれる人や子育てについて相談できる人がそばにいないという状態が見られます。

また,少子化が進む中で,若い世代の多くは,実生活の中で乳幼児に接したり,幼い弟妹の子守りをする機会が少ないままに大人になっています。このため,親の中には,乳幼児とはどういうものか,親として子どもにどのように接したらよいのかわからないなど,育児不安を持つ親が増えています。

2人々の意識や課題の多様化

人々のライフスタイルや意識が多様化し,それぞれが抱える課題も一様ではありません。例えば,仕事を持つ親は子育ての時間の不足に悩み,一方,専業主婦は日々の子育ての中で孤独感に悩む傾向が見られます。また,周囲の人の助けを上手に借りながら子育てをしている親もいますが,一人で子育てを抱え込みこれ以上自分自身を追いつめてはいけないというほどがんばっている親や,子育てには無関心な親もいます。さらに,離婚等により,仕事と子育てを一人で担っている親など,周囲の支えをより必要としている親もいます。

要するに、ここまでの流れを整理すると、

都市化→親が孤立→虐待

ということです

児童福祉司一人あたり虐待相談:都市ほど負荷が大きい

この仮説をざっと検証してみましょう

以下は、都道府県+指定都市+中核市において、配置された児童福祉司一人あたりの児童虐待相談件数を手元の数字で計算してみたものです*1

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見事に首都圏を始めとする都心部が上位に並んでいることがわかります。なお、平均値は約40件なので、大阪は平均的な自治体と比べて2倍の負荷がかかっている状態です

表にはありませんが、最下位の鳥取県児童福祉司一人あたり3.76件、ついで島根県高知県、鹿児島県と、大都市をもたない地方が並ぶので、明らかに都市問題だと言えそうです

もちろんこれには児童福祉行政の供給側である自治体側の事情*2などもあるので、完全に上記の仮説を説明し得るものではありませんが、一部の都市にのみ負荷が偏っていることは間違いなさそうです

解決の方向性

ではどうやって解決していけばよいのか。長期的な解決策と中期的な解決策を取り上げたいと思います

長期的な解決策:人口の地方回帰

今回の対策のように、児童福祉司を増やして、特に相談件数が多く負荷がかかっている都市部に多く配置することができれば、児童福祉司一人あたりのカバレッジが狭められるので、対応能力が上がるのは間違いないと思います

とは言え、単に数を増やしただけで問題がきれいさっぱり解決できるかと言うとそういうわけではありません

引用した総務省の意識調査では、都市部で発生した児童虐待のほうが地方部で発生した児童虐待よりも対応が困難だとする児童福祉司が大勢を占めており、その要因として、

都市部では、近隣関係の希薄化、密閉性の高い建物構造等により発見されにくいため悪化した状態で児童虐待が見つかることが多いから

を挙げる児童福祉司が8割以上にのぼっています

もうこうなると児童福祉司がどうとか児童相談所のあり方がどうとかいう現場レベルの話ではなく、抜本的な構造改革が必要なレベルの高度な都市問題です

東京一極集中の是正、人口の地方回帰を促す地方創生に関する一連の取組がスタートして4年になりますが、こういった地方回帰政策が長期的には最も児童虐待に効いてくるのではないでしょうか

短期の解決策:公教育の拡充

もう少し短期的な解決策だと、教育環境の整備が手をつけやすいかもしれません

以下は、公立小学校における教員一人当たり児童数と児童福祉司一人あたり虐待相談件数を都道府県単位でプロットしたものです

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虐待相談が多い都道府県ほど教員一人で面倒を見なければならない児童数が多い(=教員数が少ない)という特徴があります

児童福祉司児童相談所の体制強化も重要ですが、教育現場を児童の見守り手として機能させるために巻き込んでいき、児童福祉司の負荷を減らしていくというのも一つの糸口かと思います

ということで、今回はこの辺で

*1:傾向値としては正しいですが、作業の都合上正確性を少々欠いています。引用はお控えください

*2:配置したくても予算が下りない、相談所が少ない、など

氷河期世代の賃金格差:現状、解決策と政策の動向

メルマガで募集していたアンケートの中で、氷河期世代の賃金格差について書いてほしいというご要望があったので簡単に書いてみます

目次

問題の所在:定職に就けても就けなくても地獄

問題は、バブル崩壊直後に就活生だった人々が、不況のあおりで採用マーケットから大量にあぶれてしまい、スキルを身につけるチャンスを逸し、そのまま低賃金ワーカーとして滞留している点ですね

彼らの中に埋めようがない格差があることは事実で、それがリーマンショックのように比較的早く波が引くような性質のものであればまだ挽回の余地があったものの、10年近くに渡って長期化してしまったことで、取り返しのつかないことになってしまっていると

彼らを就活時に定職に就けたかどうかで切り分けると、定職に就けなかった者が多い一方で、定職に就けたとしても低賃金雇用に従事しているという現実があります。以下、それぞれについて整理します

定職からあぶれた人が多い

 有効求人倍率の推移をみてみます。下図の赤字で示しているのがいわゆる就職氷河期の採用マーケットで、リーマンショックは割とすぐ跳ね返っているのに比べるとかなり長期間にわたって就活戦線が冷え込んでいたことがわかります

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倍率1.0を下回れば求人に対して求職者が1人以上いるという状況なので、非常に限られた枠をめぐる争いだったことが容易にみてとれます

定職に就けても賃金は低い

もっと深刻なのはこうした激烈な就活戦線に生き残った人々も決して高待遇というわけではないという点です

下図は2011年から2016年にかけての一般労働者の所定内給与(要は長い間働いてる人の普通の給料)の変化率を表したものですが、ものの見事に赤く示された氷河期世代のみがマイナスとして出ています

2011年から16年にかけての年齢階級別所定内給与の変化率。氷河期世代のみがマイナス

平成29年版厚生労働白書では、氷河期世代のみにみられるこうした賃金の動向について以下の通りコメントしてます(下線は筆者によるもの)*1

これは、バブル崩壊後、厳しい経営環境の下で人件費抑制へのインセンティブが高まり、大企業を中心に業績・成果主義を導入する企業が増加したことが背景にあると考えられる。

バブル崩壊後の就職氷河期に就職した世代は、景気の長期低迷により大企業を中心に行われた賃金制度の見直しにより、年功的な賃金カーブが抑制された影響が現在まで続いている可能性が考えられる。

 解決策:支援施策の積み重ね

こうした現状を解決するには?と考えると、今ひとつ有効打に欠けるというか、やはり細かい施策の積み上げで多面的に支援するのが良いのかなと

ざっと思い浮かぶ限りだと以下の3種類が大きな方向性なのかなと思います

求職者のスキル開発

既存の政策ツールを活用するなら職業訓練が一番です。ただし職業訓練でできるスキルアップにも限界があるので、抜本的な賃金の改善につながるのかと問われると微妙な気もします

求職者と求人のマッチング機能強化

ハローワークがメインですが、あとは地方事業者とのマッチングとか、キャリア相談会とかですかね。個人的には民間の転職支援サービスをもっと流行らせたら良いのにと思います。抑圧された賃金カーブの外に出たらもっと良い求人がたくさんあるよということを示せば、大企業側に賃金体系を見直すインセンティブを与えることができるのではと思います

非正規から正規への転換支援

助成金を使って、半分無理やり非正規待遇職員を正規に転換するという支援策です。最終的に企業にとってメリットがでないといけないので、コストパフォーマンスとの見合いで行政側がどこまで踏み込めるのかが鍵になると思います

政府部内での検討の動向

さて、実際の政府部内での検討状況はどうなっているのかというと、2017年に決定された働き方改革実行計画*2の中では以下のような対応の方向性が示されています(下線は筆者によるもの)

就職氷河期に学校を卒業して、正社員になれず非正規のまま就業又は無業を続けている方が 40 万人以上いる。こうした就職氷河期世代の視点に立って、格差の固定化が進まぬように、また働き手の確保の観点からも、対応が必要である。35 歳を超えて離転職を繰り返すフリーター等の正社員化に向けて、同一労働同一賃金制度の施行を通じて均等・均衡な教育機会の提供を図るとともに、個々の対象者の職務経歴、職業能力等に応じた集中的な支援を行う。

これだけだとかなりアバウトな記述なので、2018年3月の労政審人材開発分科会の議論*3の中からもう少し具体的なものを取り出してみました(下線は筆者によるもの)。上記で取り上げた3つの方向性に従って淡々と施策を拡充しているんだなという感じです

  • 就職氷河期に就職時期を迎え、現在もフリーター等として離転職を繰り返す方の正社員化に向けて、短期・集中セミナーの実施わかものハローワークにおける就職支援事業主への助成措置の創設など、個々の対象者に応じた集中的な支援を行う。
  • 雇用保険法を改正し、倒産・解雇等により離職した若者に対する基本手当の所定給付日数を引上げる。

1ポツの「事業主への助成措置」というのが少々わかりにくいですが、昨年度から厚労省の方でこんな制度をスタートさせているようです*4。要は非正規→正規への転換促進施策ですね

特定求職者雇用開発助成金(長期不安定雇用者雇用開発コース)

概要
いわゆる就職氷河期に就職の機会を逃したこと等により長期にわたり不安定雇用を繰り返す方をハローワーク等の紹介により、正規雇用労働者として雇い入れる事業主に対して助成されます。

やっぱり厚労省の対応ぶりも総花的というか、積み重ねでやっていくしかないんだなという印象です

ということで、今回はこの辺で

*1:実際の白書はもう少し丁寧な考察をしてますので、詳細はこちらをご覧ください。

https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/17/dl/1-02.pdf

*2:こちらのPDFを参照

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000179750.html

*3:こちらのPDFを参照

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/0000196149.pdf

*4:正直に言えば遅すぎる感が強いです。at人事様のコラムに詳しいのでご覧ください。

https://at-jinji.jp/blog/5226/

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なお、バックナンバーの締切は次回の配信(7月1日頃を予定)までとしています

すでにプライベート面の記述を充実してほしい、社会問題への対応策を取り扱ってほしい、特定の政策について意見を聞きたい、などなど本当にたくさんのご意見をいただいており、ありがたい限りです

頂いたご要望にはすべて対応しますので、もう少々お待ち下さい

 

少子化はなぜ止まらないのか?ネット普及と女性の権利の視点

少子化政策論争って少し硬直気味というか、まあ正直言うと面白くないですよね。政府部内には議論は尽くされた感もあるんですが、個人的には疑問もってます

当然子育て環境の整備とか、教育投資みたいな話がめちゃくちゃ重要なのはわかるんですが、優等生過ぎるというか、根本の部分をあえて見逃しているんじゃないかという気さえしてます

ということで、少子化がなぜ進んでいるのかについて、これが本当の原因なのでは?と考える要因とその対策を考察したいと思います

目次

問題設定

そもそもなぜ少子化が進んでいるのかについては表層的な理解にとどまっているような気がします。なので、問題は「なぜ少子化が進んでいるのか」と設定します

問題の切り分け

ざっくり男女別に切り分けます。少子化は男女の問題であり、性差に着目することが一番妥当な切り分けだと思います

年齢階層は10代~30代くらいまでを設定してみたいと思います

仮説の設定

上記の通り切り分けた30代くらいまでの「男」「女」それぞれでなぜ少子化が進んでいるのかに関する仮説を立てます。一番クリティカルな部分なんですが、今回は適当に以下のような仮説を立てます

  • 男:インターネットを経由して手軽に性愛に触れられるようになった?
  • 女:社会進出が進んだ結果、男性に依存しなくてよくなった?

仮説の検証

それでは簡単に上記の仮説を検証していきます

インターネットの普及が影響しているのか?

 まずネットの普及によって性愛に簡単に手を出せるようになったという仮説ですが、ネット普及率と婚姻率の関係を見てみると、ネットが爆発的に普及しだしたあたりからガクっと結婚しなくなっているように見えます

インターネット普及率と婚姻率の関係

どういうことかというと、ネットが個人にも普及しだして、男がさくっと性欲を解消したり、手軽に女と付き合えるようになったんじゃないのということです。手軽に女と向き合えるので、特定の女とのみ関係を維持していく理由がどんどんなくなっている

社会進出が影響しているのか?

次に女の仮説で、社会進出が進んだ結果、昔ほど男に依存しなくてよくなったんではないかという点ですが、これは以下のグラフがわかりやすいと思います 

大学進学率と上場企業の女性役員率

このグラフが示しているのは、高等教育の機会は間違いなく女性にもほぼ平等に与えられることになったものの、実際に社会で活躍できている女性はまだまだ極端に少なすぎる、ということです。つまり、「女性の社会進出は進みつつある」ものの、「男にある程度依存しなきゃ生きていけない」現実がまだ根強くあるように見えます

示唆

次に上記の検証結果から得られる示唆を考えます

まず男についての仮説検証結果ですが、

性愛がインターネットで充足できるようになった結果、膨大なコストをかけて現実の女にコミットする価値がないと判断しているのでは?

と考えられるのではないかと。ぶっちゃけセックスなんてそれだけ取り出したら大して気持ちよくないですからね。性欲の発散だけならネットで数分で終わる話を、何回もデートして好きだのなんだの言って高いホテル代出してまでわざわざ生身の女にコミットする価値があると思えなくなってる

仮に生身の女にコミットする気力のある男でも、出会い系やSNSですぐに色んな女と仲良くできるから、特定の女に執着する必要もない。ましてや結婚するほどの執着心なんてさらさらもてないと

まあそういう感じなんじゃないかと思います

次に女についての仮説検証結果ですが、

形而上的な権利の刷り込みと現実社会との落差に耐え切れず、結局、刷り込まれた理想の自分を探しながらさまよい続けているのでは?

ということかなと。要は学校なんて理想論だけでいいわけですよ。だから大学進学にしたって点数さえ取れりゃ男女平等に進学できる。中学高校では「これからは男女平等。男も女もみんな大学目指そうぜ!」と言ってさえおけばそれで教師の役目は終わりなわけです

ところが現実の民間企業は、「男女平等みたいな理想論、1円にもなりゃしないよ」と思ってる。データだけ見ればまだまだ昔のまんまなんです。だから「私は大学を出て社会で活躍するんだ」と無邪気に思い込まされていた女の子たちが、いざ就職した途端、「あれ、学校では男女平等って習ってきたのに・・・」ということで理想と現実の落差を滑り落ちてしまう

男女平等という形而上的な権利と社会の内実との間にギャップがありすぎて、「結婚して良いお嫁さんになる」モードに切り替わらないまま浮遊してるわけです。「どうせ上には行けないんだ」という意識がどこかにありつつも、「でもこんなはずじゃ」という。気持ちの踏ん切りがつかないでいるわけです

政府内に共通する課題意識である「子育て環境の未整備」って、単にこの浮遊期間を長期化させている要因ってだけな気がするんですよね。「結婚したって子どもなんて育てらんないしー」って具合に

解決策

以上を踏まえて解決策というか、その方向性みたいなのを書きます

現実にコミットする価値を示す

男についての処方箋として、性欲を解消できるインターネットの普及は不可逆なので、まずは現実にコミットする価値を彼らに提示していかないといけないですよね

それが学校教育なのか課外活動なのかわかりませんが、現実の女と向き合うことでこんなにメリットがあるよと伝えていくことが大切なのかなと

自分もネットは使いますが、子どものころに色んな女と向き合ったおかげで、ネットじゃ得られない価値を生身の女に見出すことができるようになったんだと思います

子どものうちから2人1組は必ず男女で組ませるとかして、強制的にでも向き合う時間を作ったらいいんじゃないですかね。もっと言ったら、個人的にはナンパ講習とかやらせたらいいのにと思いますけどね笑 まじで世界変わると思います

女性の権利と内実の一致

次に女についての処方箋として、「内実を権利に近づける努力」と「権利を内実と切り離して教育しない努力」が必要だと思います

「内実を権利に近づける努力」というのは、グラフでも示したような女性の役員比率をガンガン引き上げていくための施策だとかですね。これは今もやってるので、そのまま続けたらいいと思います

「権利を内実と切り離して教育しない努力」というのは、教育課程で社会に出た後の期待値を高めすぎないということです。もちろん権利は権利としてしっかり教えるべきですが、大学を出た後の惨憺たる現実についてもはぐらかさずにきっちり教えたほうがいいのではないかと

ざっとこんな感じです

またメルマガで補足します