官僚日記

現役若手官僚の絶叫

保育の受け皿を増やすには:地方を責任主体にし、権限を移譲すべき

以前からメルマガで募集していた読者投稿企画「公共経営ラボ」に、保育の受け皿整備に関する骨太な投稿*1があったので、自分の考えもここにまとめておこうと思います。投稿内容の全文とそれに対する公共経営ラボ事務局の見解はこれから配信予定のメルマガ第13号に掲載しますのでそちらをご覧ください

目次

問題の所在:保育の受け皿が足りないのはなぜか

今回の投稿では、保育の受け皿をもっと拡充するにはどうすればよいのか、という問題提起がありました。保育の受け皿が足りずに待機児童が発生している背景には色々な要因が挙げられると思いますが、根本を突き詰めると、「行政側の責任の所在が不明確だから」という一言に尽きるのではないかと考えています

待機児童は都市圏に集中

まず、保育所がどういった場所で不足しているのかを見ていきましょう

以下のマップは厚労省が公表している都道府県別の待機児童数*2に関するもので、色が赤に近いほど保育所が不足している地域ということになります

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一目瞭然ですが、待機児童は、東京都を中心とする首都圏と大阪近辺というごくごく一部の地域にのみ偏っていることがわかりますね。つまり、待機児童問題は本来、どちらかと言うと国全体と言うより特定地域における問題なんです

地方が地方の問題として引き受けられるように

今は国の方で少し大きく取り上げられすぎている感がありますが、まさに問題の根本はここにあると思っています。国が作った子育て安心プランの中で32万人の保育の受け皿整備が打ち出され、その数値的根拠があやふや(潜在ニーズが入っていない、等)だという議論が起こったことがあるのですが、本当は潜在ニーズまで含めて一番理解している地方じゃなきゃきちんとした数字なんて出しようがないのでは?と思います

それなのに、実態を把握しきれるはずもない国が国の問題として引き受けすぎるがゆえに、責任の所在が曖昧になっている、というのが保育の受け皿整備問題の根本原因です

解決策:問題を抱える地方が主体になれる仕組みが必要

したがって、保育の受け皿整備は問題を抱える地方が主体となって取り組んでいくことが重要です。そのかわり、ある程度保育所関係の規制を緩和するか、思い切って地方の責任のもとで自由にルールを作ってもらった上で、財源問題も含めて引き受けてもらうべきでしょう

一定のルール作りはどんどん地方に任せるべき

具体的な権限の移譲の方法ですが、保育所関係に絞ってみても、全国一律で適用する意味がどこにあるのか?と疑問視されている細かい規制は実はたくさんあります

例えば、ある保育所がよその保育所から児童を受け入れて保育する共同保育は土曜日しか認められていません。保育所一箇所あたりの児童数が少なくなるGWなどの大型連休シーズンにも合わせて共同保育を実施できるよう規制緩和すれば、激務な保育士さんたちもまとまったお休みが取りやすくなり、待遇改善につながりますよね

正直、この規制に何の意味があるのかさっぱりわかりませんし、他にもナンセンスだなと思う規制はわんさかあります。この手のルール作りは、現場を誰よりも熟知している地方にガンガン委ねていくべきです

保育所のビジネスモデルに起因する財源問題

次に財源ですが、そもそもなぜ大都市圏でばかり待機児童問題が発生するのかと言うと、端的に言えばたいして儲からないからです。以下、東洋経済から引用します*3

経営に携わると、大都市圏で保育所が不足する理由は簡単にわかります。場所を食う割には儲からない、言い換えれば土地生産性が低すぎるのです。

そもそも保育所には、国の基準を満たす認可保育所と、その基準を満たさない認可外保育所(無認可と呼ばれることもあります)の2種類があります。認可保育所の場合、0歳児(≒育休明け)には1人当たり3.3平方メートル、子ども3人に1人の保育士が必要です。これを確保しようと思うと、10階建ての保育所ができるならともかく、民間企業が参入しようと思っても採算がとれません。

もちろん、参入してくる企業はあります。どうするかというと、基本的には人件費を削るケースが多く見られます。時給1000円ほどで保育士の資格を持たない人をたくさん雇うのですが、結果として、子どもを連れて行くと、担当の保育者が替わっていたとか、公設民営で年度が替わると別の業者になっていた、といったことが起きます。

「そんなら、補助金増やせよ」と思われるかもしれませんが、若者や子育て世代の投票率が高齢層に比べて著しく低いために、政治家は高齢者をより重視します。福祉の予算を高齢者から割いて、子育て関係に回すのは至難の業なのです。

言い換えると、同じ土地に保育所を建てて補助金に頼るくらいならもっと違う土地の使い方をしたほうが合理的だ、という発想ですね

なので、引用した記事の最後のパラグラフにもある通り、最後は補助金を増やすしかないというのはその通り。権限移譲とセットで財源問題が振り付けられる場合、多くの自治体で頭を悩ませるのはこの保育所特有のビジネス構造でしょう

国の関与を減らすことで生まれるインセンティブがある

これに対しては明確な回答があるわけではありませんが、地方行財政改革にはまだまだやれることがたくさんある、というのは事実かと思います

また別の記事で書きますが、もっと効率的な行政を進めていくことで、子育て予算を増やせる余地は自治体側にもあるのです。そこで捻出した予算を保育所に回し、保育のキャパシティを増やしていくわけです。そもそもそこまで追い込まれなければ地方側だって本気になんかなりませんよ、、

いつぞやも書きましたが、しょせん国の仕事というのはあまねく2,000の基礎自治体の取りまとめに過ぎません

彼らに届かない実効性のないルールは撤廃して、彼らの責任のもとに問題解決にあたるべきです

*1:今回が初投稿になります。ピーターサム様、大変ロジカルで貴重なご提言をありがとうございます

*2:厚生労働省保育所関連状況取りまとめ」(資料4)
平成29年4月1日全国待機児童マップ(都道府県別)より。以下URL参照

https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11907000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Hoikuka/0000176121.pdf

*3:東洋経済保育所は、なぜ需要があるのに増えないのか?」

https://toyokeizai.net/articles/-/33576?page=2