官僚日記

現役若手官僚の絶叫

氷河期世代の賃金格差:現状、解決策と政策の動向

メルマガで募集していたアンケートの中で、氷河期世代の賃金格差について書いてほしいというご要望があったので簡単に書いてみます

目次

問題の所在:定職に就けても就けなくても地獄

問題は、バブル崩壊直後に就活生だった人々が、不況のあおりで採用マーケットから大量にあぶれてしまい、スキルを身につけるチャンスを逸し、そのまま低賃金ワーカーとして滞留している点ですね

彼らの中に埋めようがない格差があることは事実で、それがリーマンショックのように比較的早く波が引くような性質のものであればまだ挽回の余地があったものの、10年近くに渡って長期化してしまったことで、取り返しのつかないことになってしまっていると

彼らを就活時に定職に就けたかどうかで切り分けると、定職に就けなかった者が多い一方で、定職に就けたとしても低賃金雇用に従事しているという現実があります。以下、それぞれについて整理します

定職からあぶれた人が多い

 有効求人倍率の推移をみてみます。下図の赤字で示しているのがいわゆる就職氷河期の採用マーケットで、リーマンショックは割とすぐ跳ね返っているのに比べるとかなり長期間にわたって就活戦線が冷え込んでいたことがわかります

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倍率1.0を下回れば求人に対して求職者が1人以上いるという状況なので、非常に限られた枠をめぐる争いだったことが容易にみてとれます

定職に就けても賃金は低い

もっと深刻なのはこうした激烈な就活戦線に生き残った人々も決して高待遇というわけではないという点です

下図は2011年から2016年にかけての一般労働者の所定内給与(要は長い間働いてる人の普通の給料)の変化率を表したものですが、ものの見事に赤く示された氷河期世代のみがマイナスとして出ています

2011年から16年にかけての年齢階級別所定内給与の変化率。氷河期世代のみがマイナス

平成29年版厚生労働白書では、氷河期世代のみにみられるこうした賃金の動向について以下の通りコメントしてます(下線は筆者によるもの)*1

これは、バブル崩壊後、厳しい経営環境の下で人件費抑制へのインセンティブが高まり、大企業を中心に業績・成果主義を導入する企業が増加したことが背景にあると考えられる。

バブル崩壊後の就職氷河期に就職した世代は、景気の長期低迷により大企業を中心に行われた賃金制度の見直しにより、年功的な賃金カーブが抑制された影響が現在まで続いている可能性が考えられる。

 解決策:支援施策の積み重ね

こうした現状を解決するには?と考えると、今ひとつ有効打に欠けるというか、やはり細かい施策の積み上げで多面的に支援するのが良いのかなと

ざっと思い浮かぶ限りだと以下の3種類が大きな方向性なのかなと思います

求職者のスキル開発

既存の政策ツールを活用するなら職業訓練が一番です。ただし職業訓練でできるスキルアップにも限界があるので、抜本的な賃金の改善につながるのかと問われると微妙な気もします

求職者と求人のマッチング機能強化

ハローワークがメインですが、あとは地方事業者とのマッチングとか、キャリア相談会とかですかね。個人的には民間の転職支援サービスをもっと流行らせたら良いのにと思います。抑圧された賃金カーブの外に出たらもっと良い求人がたくさんあるよということを示せば、大企業側に賃金体系を見直すインセンティブを与えることができるのではと思います

非正規から正規への転換支援

助成金を使って、半分無理やり非正規待遇職員を正規に転換するという支援策です。最終的に企業にとってメリットがでないといけないので、コストパフォーマンスとの見合いで行政側がどこまで踏み込めるのかが鍵になると思います

政府部内での検討の動向

さて、実際の政府部内での検討状況はどうなっているのかというと、2017年に決定された働き方改革実行計画*2の中では以下のような対応の方向性が示されています(下線は筆者によるもの)

就職氷河期に学校を卒業して、正社員になれず非正規のまま就業又は無業を続けている方が 40 万人以上いる。こうした就職氷河期世代の視点に立って、格差の固定化が進まぬように、また働き手の確保の観点からも、対応が必要である。35 歳を超えて離転職を繰り返すフリーター等の正社員化に向けて、同一労働同一賃金制度の施行を通じて均等・均衡な教育機会の提供を図るとともに、個々の対象者の職務経歴、職業能力等に応じた集中的な支援を行う。

これだけだとかなりアバウトな記述なので、2018年3月の労政審人材開発分科会の議論*3の中からもう少し具体的なものを取り出してみました(下線は筆者によるもの)。上記で取り上げた3つの方向性に従って淡々と施策を拡充しているんだなという感じです

  • 就職氷河期に就職時期を迎え、現在もフリーター等として離転職を繰り返す方の正社員化に向けて、短期・集中セミナーの実施わかものハローワークにおける就職支援事業主への助成措置の創設など、個々の対象者に応じた集中的な支援を行う。
  • 雇用保険法を改正し、倒産・解雇等により離職した若者に対する基本手当の所定給付日数を引上げる。

1ポツの「事業主への助成措置」というのが少々わかりにくいですが、昨年度から厚労省の方でこんな制度をスタートさせているようです*4。要は非正規→正規への転換促進施策ですね

特定求職者雇用開発助成金(長期不安定雇用者雇用開発コース)

概要
いわゆる就職氷河期に就職の機会を逃したこと等により長期にわたり不安定雇用を繰り返す方をハローワーク等の紹介により、正規雇用労働者として雇い入れる事業主に対して助成されます。

やっぱり厚労省の対応ぶりも総花的というか、積み重ねでやっていくしかないんだなという印象です

ということで、今回はこの辺で

*1:実際の白書はもう少し丁寧な考察をしてますので、詳細はこちらをご覧ください。

https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/17/dl/1-02.pdf

*2:こちらのPDFを参照

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000179750.html

*3:こちらのPDFを参照

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/0000196149.pdf

*4:正直に言えば遅すぎる感が強いです。at人事様のコラムに詳しいのでご覧ください。

https://at-jinji.jp/blog/5226/